記事・コラム 2011.04.05

スーパードクター特別講義

消化器外科の未来について 第4回

講師 高橋 慶一

がん・感染症センター都立駒込病院

1957年に神奈川県横須賀市で生まれる。
1984年に山形大学を卒業する。
東京都立駒込病院(現 がん・感染症センター都立駒込病院)での研修を
経て、東京都立駒込病院外科に勤務する。
2009年にがん・感染症センター都立駒込病院大腸外科部長に就任する。

研究マインドを持つ

―― 市中病院は研究マインドを持ちにくいと言われる中で、先生は研究にも打ち込んでいらっしゃいます。

高橋 上の先生方から、論文を書くために研究をするのではなくて、研究は医学を発展させるためにあると言われていたことが大きいです。我々は日頃、臨床で治療をしていると、どうしてこうなるのか疑問に思うところが当然、出てきます。それをどういうふうにしたらうまくいくのか、どういうふうに解決できるのかを考えるのが研究マインドです。もちろん、市中病院ですから忙しいことは忙しいのですが、空いている時間を一部使って研究しています。当院の3号館はもともと臨床医学総合研究所という研究所だったのです。そこで、がん細胞を移植して、抗がん剤をうまく効くようにするにはどうしたらいいのか、どのように治療効果を高めていくのかといった研究を共同で行っていました。

―― 今はどのような形で研究を進めていらっしゃるのですか。

高橋 今は資金を取ってくることが非常に難しくなったので、臨床試験の共同研究で症例を集積してもらって、その中に入っていく形で進めています。最近は打ち合わせのときに尿でがんが診断できないのかということを話したのがきっかけになって、スペルミンを調べたりしています。

―― 若い医師に研究の魅力をお伝えくださいますか。

高橋 若い人へのメッセージを送るとすれば、単に手術をするだけが外科医ではないということですね。まず研究への気持ちがないといけないし、手術や臨床からの流れで研究の分野に入っていく場合も当然出てくるはずなんです。今は専門医を取って終わりというような流れもありますが、本当はそうではないですよと言いたいです。

在宅医療

―― 駒込病院は在宅医療にも力を入れています。

高橋 がんセンター的な病院ですから、緩和ケアや在宅医療は必須です。当院ではがん診療連携拠点病院として、多職種によるチームで在宅医療を行っています。

―― 先生は日本在宅医療学会の理事も務めていらっしゃいます。

高橋 以前ほどは訪問診療できなくなってしまいましたが、今も訪問先と病院との橋渡し役でありたいと考えています。私は上の先生方から「患者さんが来られたら、最初の診断から最後まで診てさしあげなさい」と教わったのですが、この方針のもとで在宅医療に携わってきました。外科でがんを診る医師を30年していますが、手術は一つの手段に過ぎません。皆にそれぞれ違う人生があって、その中で病気になってしまった方が最後に良かったと感じてくださるためには手術だけではなく、手術後の患者さんに対するケアは手術以上に大事だと気づきました。私自身も最後はやはり家で迎えたいと願っていますが、色々と制限はあります。しかし、システムを整えてさえいれば、在宅で療養していける体制は取れるはずなので、医療がさらに発展するといいと思っています。

―― どのぐらい長く在宅医療をなさってきたのですか。

高橋 1990年代からですので、20年以上になります。手術だけに徹底してスペシャリストになるのも一つの道かもしれませんが、手術もその後も経過をきちんと診て、全人的にケアしてあげられる外科医がいてもいいですよね。今は全てが分業になっていますが、それは良いところも悪いところもあります。緩和ケアを行う医師は必要ですが、緩和ケアしか知らない医師であってはいけないと思います。広い視野を持ち、総合的に考えたいですね。患者さん側からすれば、「先生が変わってしまって、悪くなった」ということもあるかもしれませんので、引き出しを広くしておきたいものです。