1-A:診療上の心得
1.時間外に訪れる患者には、一定の割合で見逃してはならない疾患・病態の患者がいることを、常に念頭におく。 患者の訴えに加えて、十分な情報(問診・視診・触診・聴診・検査・経過観察など)を集める。
2.ショック、心停止、呼吸停止などの患者を除けば、診断よりも処置が優先される局面は多くはない。 救急の場合も、処置・対応療法を行いながら、重篤な疾患を除外することを繰り返して確定診断に近づくよう努めてゆく。
3. 上級医や各科の専門医に相談するときは、緊急性の有無を考慮した診療を行う。
4. 解熱や鎮痛などの対症療法を適宜迅速に行い、時間外に来院した患者・家族の受診動機、不安を理解する。
5. 時間外受診であっても、その医療機関にかかりつけの患者の場合、DNAR(本人または代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法を行わないこと)をはじめとした治療方針や、 処方の内容などについて、主治医と患者・家族との同意が行われていることがあるので、それまでのカルテ記載などをよく読み、主治医と患者・家族とのラポールを損わない治療を行う。 必要に応じて主治医と連絡をとる。
6. 院内トリアージ:トリアージとは、災害医療など要医療者が医療資源に比べ圧倒的に多い局面での優先度を決める識別救急のことである。 病院救急の場合も、救急患者が多数重畳した際はトリアージを行ってもよい。一定の条件を満たせば、現在、小児科に限らず院内トリアージが保険適用である。
7. 院内急変の対応:当直医、ER勤務医で手分けして、積極的に対応する。各科の協力体制が必要なことが多い。
1-B:カルテ記載上の心得
1.後日、第三者が読んでわかるよう詳細に書くこと。のちに診断書の発行や医療訴訟などの場合に不都合となる場合がある。 本人以外への説明の場合は、本人との関係を確認し、誰に説明したかも記載する。
2. 経過観察中の所見や処置については、必ず時刻を添えること。次の処置・投薬の際に、前回の時刻がわからないと判断に苦しむことになる。
3.アセスメント(評価)を意識して書くこと。 患者を診た当直医には診断が明らかでも、引きついだ医師はカルテを読んだだけでは、当直医が何を疑い、何のためにその処置をしたのかわからないことがある。
1-C:指導医・専門医に相談する際の心得
1.自信がなければ相談は早いほうがよい。
2.専門医といえども情報なしでは判断できない。①患者の年齢・性別、②主訴、③現病歴、④既往歴(服用薬含む)、⑤主な身体所見、検査結果などの情報を整理すること。
何を相談したいかを明らかにしてから連絡をとる。
3. 専門医の診療に同席することは、またとない研修の機会である。さらに、自分の行った評価・治療方針についてコメントをもらうとよい。
1-D:病状説明の心得
1.病状説明の重要性
病状を説明しなければ、患者家族の不安は募り、病状が悪化した場合には「医療ミス」であるかのような誤解を招くことがある。 特に若い医師の自信なさそうな態度が、それを助長する。診療が一段落したら(重篤時には他の医師と役割分担して)、その時点での、診断、病状、治療、見通しについて必ず説明する。
2. Key personの設定
本人以外への説明は、本人の同意を得た人をkey personと設定して行うことが原則である。本人の意識がない場合などは、配偶者・親・子・兄弟など法的根拠のある代理者をkey personとする。
3.重篤な疾患の場合
生命にかかわる可能性の高い疾患や後遺障害の可能性がある場合には、その防止に全力を尽くすとともに、医学的に正しい対処をしていても、急変・進行・合併症・後遺症などを起こす可能性についてkey personには説明しておく
4.診断が未確定の場合
患者・家族の不安を理解し、診療により明らかになったこと(異常所見、考えられる鑑別診断など)、経過観察や、精査をしなければ明らかにならないこと、今後予想される経過などを十分に説明する (軽快する場合と増悪する場合の両方を説明しておくのが望ましい)。
5.帰宅させる場合
経過観察の重要性とその際の観察点について説明したうえで、「何か変わったことがあれば連絡するように」伝える。本コンテンツ各項目での「disposition」が目安として利用可能である。
6.ポイントをカルテに記載
朝になると担当医が交代することが多い。説明がくい違うと不信感を招くことになるので、説明した内容のポイントと説明した相手を記載しておく。