記事・コラム 2016.07.05

Dr.南淵明宏の「医療最前線」

【第三回】『Micra』心室内留置型心臓ペースメーカー

講師 南淵 明宏

昭和大学横浜市北部病院循環器センター

昭和58年、奈良県立医科大学医学科卒業。
34歳以来心臓外科手術の執刀医として活躍。その間、midCABG(ミッド・キャブ)と呼ばれる小さなキズで、しかも短時間でバイパス手術を行う手術方法に習熟するなど、手術手技においては我が国の心臓外科医の間で彼を崇めないものはいない。
民間病院で活躍してきた立場から、彼なりの医療観を歯に衣を着せることなく常に社会に発信し続けてきた。
その生き様は、大学病院教授となった今も少しも変わることはない。

画像出典元:Micra / Medtronic

心室内留置型心臓ペースメーカー、「マイクラ」
長さ25.9mm。MRI対応、バッテリー寿命12年。
右心室内留置型心臓ペースメーカーが登場した。
メドトロニック社製である。さすが世界初の心臓ペースメーカーを開発した会社である。
アメリカでは既にFDAの承認が下り、使用されている。

従来のペースメーカーは本体を鎖骨のすぐ下(尾側)の皮下に植え込み、リード線を鎖骨下静脈を経由して右心室まで到達させて、その尖端で心臓をペーシングしていた(もちろんリード線の尖端はセンサーとしても機能する)。
それが心室内部に本体が留置される仕組みだ。つまりリード線は不要だ。
リード線は血栓を形成して、場合によっては上大静脈を閉塞させてしまうこともあった。

皮下に埋め込まれたペースメーカーの本体は年々小型化していったが、痩せた患者では本体が大きく浮き上がった状態になってしまうこともあった。
それらが全く解消されたわけであるが、いろいろと気になることもある。

まずはバッテリーの寿命である。
ペースメーカー本体の大きさ、重量の大半をバッテリーが占めている、と言う常識からすると、マイクラの寿命は12年ということで、従来のものとそう見劣りしない。
ただし「交換はどうなるのか?」という疑問については「難しい」とのことだ。「周囲に繊維組織がまつわりついているだろう」、ということで、どうしても取り除くのであれば心臓を開くような手技が必要かも知れない。

ただし10年先はまたあたらしい製品が席巻していることだろう。バッテリーが切れて機能がなくなっても、そのまま留置されていて物理的に問題がないのであれば、あらたな製品――より小型であるかも知れないし、全く別の発想、構造、様式のものかも知れない――によって対処は可能なのではないか。