医療ニュース 2025.01.20
「防災研修はリアル伝えないと無意味」…体育館で避難所生活し1泊体験、参加女性「過酷さは想像以上」
災害時に日常生活とは異なる環境下で様々なストレスにさらされる避難所生活。厳しい現実をどう自分のこととして考え、備えてもらうか。岡山県備前県民局は、NPO法人や自衛隊などと連携し、一般人が参加する避難所運営体験「防災研修キャンプ」を実施した。企画運営は実際に被災地で活動する民間団体が担い、実際の避難生活に近い状況を経験できるのが特徴だ。(浜端成貴)
「ストレスを知識と備えに変えて持ち帰ってください」
昨年11月23日午後、玉野市の市立荘内中学校の体育館で、能登半島地震でも支援に携わった一般社団法人「epoおかやま笑顔プロジェクト」代表の村上浩司さん(57)が、参加した7~81歳の男女32人に呼びかけた。
研修プログラムは市の避難所運営マニュアルを参考に村上さんが考えた。同日午前10時52分、南海トラフを震源とする地震があり、玉野市で震度6強を観測。上下水道の機能が停止し、ペット連れや車椅子が必要な障害者など様々な事情を抱えた避難者が、市の指定避難所である同体育館に訪れていると想定した。
最低気温が6・9度となったこの日、体育館にはエアコン設備はなく、用意された段ボールベッドの材料は15人分で、参加者の多くが冷たい床に毛布を敷いて寝る必要があった。常設のトイレの使用も禁止し、段ボールと袋で手作りした災害用トイレしか使えないルールも設けた。自衛隊日本原駐屯地による夕食の炊き出しも実施した。
段ボールベッドの分配では、独身男性が率先して家族連れに譲るなどしてスムーズに決まった一方、洗濯物については、「男女の洗濯物をわけて干し、下着類は人目につかない奥の方に干した方がいいのでは」「自分の洗濯物が他人のものと一緒になるのが嫌だという意見もある。家族の洗濯物で固めた方がいいのでは」などと議論が交わされた。
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その後、解散するのがよくある避難訓練だが、この研修では参加者は実際に体育館に1泊。翌朝、AED(自動体外式除細動器)を使った救命措置の体験や、災害時の避難行動計画作りに取り組むなどした。
真庭市の栄養士の女性(60)は「1日だから耐えることができたが、避難所生活の過酷さは想像以上で、備えの必要性を改めて実感した。大変だったけど、とても学びになった」と話した。玉野市の中学2年女子生徒(14)は「寒くて不安な気持ちもあったけど助け合いが安心につながると気づけた」と話した。
村上さんは「防災研修はリアルを伝えないと意味がない」と話す。1995年の阪神大震災以降、避難所の運営に関心が高まり、全国各地で研修が行われてきた。しかし、能登半島など多くの被災地で村上さんが目の当たりにしたのは、水や食料などの備蓄が一切ない避難所があるなど、阪神大震災の時とほぼ変わっていない実態だった。
自治体の防災研修の多くは、部屋の冷暖房が利いているなど、被災地の状況とはかけ離れた環境下で実施されることが多く、本格的なプログラムの必要性を感じたことが、この研修を始めたきっかけという。
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災害対策基本法では、避難所の指定や開設は自治体の義務だが、環境整備は努力義務とされる。劣悪な環境は災害関連死の増加につながり、阪神大震災では921人に上った。能登半島地震では避難所業務を全て自治体が担うケースもみられ、自治体が日ごろから民間団体と連携を深め、すぐに運営を支援してもらえるような態勢作りが求められている。
内閣府が2023年9~11月に全国の1313市区町村を対象に行った調査では、避難所の運営を担う職員向けの訓練を実施している自治体は全体の65・8%。そのうち、避難者の受け入れなど開設訓練は81・6%を占めるものの、ルールの検討など運営訓練を実施している自治体は48・4%にとどまる。
防災研修キャンプの実施を発案した備前県民局地域づくり推進課の川辺秀則参事は「避難所の運営は地域住民の力が欠かせない。つらさも含めて防災について考えてもらうことで、有事の際に本当に役に立つ力が身につくはず」と話している。