医療ニュース 2025.01.14

「腹八分目」「酒はほろ酔い」…現代にも通用する貝原益軒「養生訓」、医師らがネットで発信

 健康長寿の実践書「養生訓」で知られる江戸期の福岡藩学者、貝原 益軒(えきけん) (1630~1714年)の功績を伝えようと、福岡市の医師らが特設ウェブページで発信を始めた。各地に残る史跡や資料を取りまとめたもので、「人生100年時代」を迎えた現代にも通用する益軒の教えを広めていく考えだ。(原聖悟)

江戸のベストセラーに

「長寿社会の日本だが、介護が必要な人も多い。解決法を300年以上も前に提言したのが、益軒の養生訓」と話すのは、市民団体「養生訓の里 ネットワーク」会長で、原土井病院(福岡市東区)の理事長を務める原寛さんだ。92歳で現役の医師でもある原さんは「実践している私は、この通り元気」と笑う。

 「塩分を控えめに」「腹八分目」――。全8巻の養生訓は1712年、生活習慣に気を配り、傘寿を過ぎた益軒が自らの体験や知見をまとめたものだ。

 庶民も読めるように漢文ではなく和文を用いたことで、江戸の「ベストセラー」に。生活習慣病の予防につながる見識も豊富で、現代語版や関連書籍が今も出版され続けている。医学界にも研究者が多いという。

 旅好きだった益軒は、京都や江戸、長崎を頻繁に訪れては現地の高名な学者たちと交流し、見聞を広めた。数々の名著や名言を残し、安倍晋三・元首相が施政方針演説で、「寛容の心」を伝えるために取り上げたこともある。

益軒の足跡を網羅

 益軒の足跡は福岡県を中心に点在しているが、網羅的にまとめたものはこれまでなかったという。

 生誕400年を2030年に控え、出身地の福岡市で研究や交流活動を重ねてきた原さんや大学関係者5人が、昨年12月に結成したのが「ネットワーク」だ。ウェブページでは益軒の経歴や功績に加え、屋敷跡や碑、夫婦が眠る金龍寺(福岡市中央区)などのゆかりの地を地図とともに紹介している。資料を所蔵する博物館や図書館の情報も充実させるという。

 全国で益軒に学ぶ人たちとの交流も深めていく予定で、生誕400年に向けてイベントやシンポジウムも企画する。養生訓の内容を基に、子どもや若者、女性や高齢者に合った健康法も指南していく。

「現代の心身医学の先駆け」

 厚生労働省によると、昨年9月時点で要介護(要支援を含む)と認定されている人は約719万人に上り、10年前から100万人以上増えた。社会保障費の抑制にもつなげるため、政府は心身ともに健康で日常生活に制限の必要がない「健康寿命」をより重視するようになっている。

 団体の発起人のひとりで、中村学園大学(市城南区)の久保千春学長(76)は「益軒は養生訓で、節制やストレス対策の重要性を述べており、まさに現代の心身医学の先駆けといえる」とした上で、「病気は食事や睡眠、運動といった生活習慣が大きく影響する。益軒の教えをわかりやすい形で案内していきたい」と話している。

  ◆貝原益軒( 損軒そんけん )= 江戸中期に活躍した筑前・福岡藩の儒学者、本草学(薬学)者。福岡藩士の子として生まれ、「黒田家譜」「筑前国続風土記」などを手がけた。生涯で医学から歴史学、教育学まで60部270余巻を残し、シーボルトは「日本のアリストテレス」と博学ぶりを称賛した。