医療ニュース 2024.10.31

同性婚カップル「法律の後ろ盾がない中での子育ては手探りばかり」…違憲判決に「色々な家族を受け止めてくれた」

 提訴から5年半の時を経て、30日に言い渡された東京高裁判決は、同性間の結婚を認めない民法などの規定を「憲法違反」と断じた。原告らは「色々な家族がいることを司法が受け止めてくれた」と歓喜に沸いた。(徳山喜翔、杉本和真)

 「婚姻の平等へさらに前進!」。30日午前10時半過ぎ、東京・霞が関の高裁前。原告らが横断幕を掲げると、支援者らから「おめでとう」と大きな拍手が送られた。

 原告の一人で、東京都世田谷区で暮らす50歳代の小野春さん(仮名)は約20年間、同性パートナーの西川麻実さん(同)と共に、それぞれが元夫と授かった3人の子どもを育ててきた。休日には子どものサッカー練習に付き添い、誕生日にはディズニーランドに出かけた。「家族の中身は元夫の時と何も変わらなかった」

 だが、自身が産んだ次男が病気になった時、パートナーによる入院手続きを病院から断られた。「実態は親子なのに、戸籍上は他人。公的証明がなければ家族は守れない」と痛感した。

 今回、高裁判決が言い渡された「東京1次訴訟」は2019年2月に提起された。22年11月の1審・東京地裁判決は「同性愛者が家族になるための法制度が存在しないことは憲法に違反する状態」とまでは認定した。ただ、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」とする憲法24条1項を「異性間の婚姻を指す」と解釈するなどし、「違憲」の壁は乗り越えなかった。

 これに対し、高裁判決は憲法制定時、婚姻は男女間で行われることが前提で、同性婚の可否が議論にならなかった点を重視。異性間の「夫婦」が血縁関係のない子どもを共に育てているケースにも触れ、同性か異性かで婚姻の可否を区別することに合理的な根拠はないと結論づけた。

 高裁判決は小野さんと西川さんについて、「婚姻関係にある夫婦と異ならない共同生活を営んできた」と触れた。法廷で次男と一緒に言い渡しを聞いた小野さんは判決後の記者会見で、「法律の後ろ盾がない中での子育ては手探りばかりだったが、色々な家族がいるとの思いが裁判所に届いてくれて胸がいっぱい」と涙を流した。

「社会的な議論必要」指摘も

 この日の判決は、同性婚に対する社会の理解が進んでいるとして、国会に対し制度改正を促した。原告側から評価する声が聞かれる一方、識者らからは社会的な議論が必要という意見も出ている。

 高裁判決は、自治体でパートナーシップ制度の導入が広がり、同性婚に関する意識調査で賛成している人が増えていることを挙げ、同性婚について「社会的な受容度は相当程度高まっている」と評価した。

 さらに、同性婚を認める手立てとして、民法や戸籍法の改正のほか、婚姻とは別の制度を新設することを例示。具体的な制度の構築は国会の裁量に委ねられているとしつつ、その裁量は「法の下の平等」など憲法の範囲内に限られるとくぎを刺した。弁護団の寺原真希子弁護士は「国会での議論にも具体的な注文をつける画期的な判決だ」と評価した。

 一方、元横浜家裁判事の梶村太市弁護士は、高裁が言及した複数の意識調査では、同性婚に賛成する声がほとんどは7割以下で、多くても8割弱だったことに着目。「同性婚は国民の人生観に関わる問題であるのに、『8、9割以上の圧倒的多数による賛成』とは言いがたい調査結果を基に『受容度は高まっている』と結論づけてよいものなのか」と話す。

 その上で、梶村弁護士は「司法の場ではなく、まずは国会で制度改正の是非について慎重な議論がされるべきだ」と話した。

 林官房長官もこの日の記者会見で「同性婚は国民生活の基本に関わる問題で、国民一人ひとりの家族観とも密接に関わる」とし、国民的な議論が必要だとの認識を示した。

地裁判断は割れる

 一連の訴訟は2019年以降に全国で起こされ、地裁では違憲(札幌、名古屋)、違憲状態(東京1次、福岡、東京2次)、合憲(大阪)の判断が出ている。

 いずれも請求が棄却されたことから原告側が控訴しており、今年3月には札幌高裁で初の控訴審判決が出た。1審に続いて違憲となったが賠償請求は引き続き認められず、原告側は上告。今回の東京高裁判決に対しても、原告側は上告を検討しているという。12月13日には福岡高裁で3件目の控訴審判決が予定されている。大阪、名古屋、東京2次の各訴訟も高裁で審理が進む。

 早稲田大の棚村政行名誉教授(家族法)は「真っ正面から『婚姻平等の道を開くべきだ』とした東京高裁判決は高く評価できる。同種訴訟への影響も大きいだろう」と話している。