医療ニュース 2024.10.21

「病院船」運用へ本格準備、民間カーフェリーで実動訓練…大規模災害時に海上から医療アプローチ

 政府は来年度から、医療機材や病床を備えた「病院船」の運用に乗り出す。震災など大規模災害が発生した際、入院患者の搬送やけが人らの治療を担い、現地の病院を支援する。当面は民間のカーフェリーを活用する方針で、今月には実動訓練を行い、実用化に向けた準備を本格化させた。

 内閣官房によると、病院船は被災地近くの港に接岸し、現地の病院の入院患者を離れた地域に移送したり、軽傷者らを船内で治療したりして、陸上の医療機能を補完する役割を持つ。手術室がないことなどから、重傷者には対応できない。

 米国では、1000床のベッドを備える海軍の病院船「マーシー」が、2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震で出動した。新型コロナウイルスの流行時には、肺炎以外の患者の療養に使われた。

 国内では、1995年の阪神・淡路大震災以降、導入が議論された。その後、東日本大震災など災害が相次いだことを受け、病院船の活用を定めた「災害時船舶活用医療提供体制整備推進法」が2021年6月、議員立法で成立した。

 同法には病院船を保有することが定められたが、20年度の試算では、500床規模を新造すると約430億円かかる。このため、将来的な保有を前提に、まずは民間のカーフェリーを借りて運用し、必要な機材や設備などを見極める。

 運用を担う内閣府が複数の船舶会社に協力を要請。災害時に使用料を支払ってカーフェリーを借りることを想定している。船には日本赤十字社の医師らが乗り込み、日赤の医療機材を持ち込む。普段は車を止めるスペースに並べたテントや客室を病床とする。

 今月14日には、北海道・室蘭港で実動訓練が行われた。「DMAT」(災害派遣医療チーム)などに所属する約30人の医療従事者が参加し、フェリーに救急車が乗り入れる流れなどを確認した。結果を踏まえ、政府は、年度内に出動や活動の手順をまとめる。

 能登半島地震のように、港の地盤が隆起して座礁の恐れがある場合は接岸できず、活動できないケースもある。厚生労働省内には、巨額の建造費をかけ、病院船を保有することを懸念する声も出ている。

 災害時の医療に詳しい日赤の災害医療統括監の丸山嘉一医師は「島国の日本では、海上からのアプローチは有効だ。今後、想定される南海トラフ地震などへの備えを強化する上でも導入の意義は大きい。ただ、出動回数が見通せないため、保有については、平時にも有効活用できる方法などの議論を尽くす必要がある」と指摘する。