医療ニュース 2024.06.24

がんの男児の精巣保存、成人後の不妊治療に備え技術開発へ…日米チーム「精巣バンク」計画

 がん治療を受ける男児の精巣の一部を凍結して長期保存し、成人後に正常な精子を作れるようにする不妊治療技術の開発に、大阪大など日米共同研究チームが着手した。将来の実用化を見据え、男児の精巣の一部を採取する「精巣バンク」の運用を、来年にもスタートさせる計画だ。

 がんで放射線照射や抗がん剤の投与を受けると、治療が成功しても不妊になるケースが多い。成人は治療前に卵子や精子を凍結温存する技術があり、女児は凍結した卵巣を成人後に体に戻し出産した事例の報告があるが、精巣が未成熟な男児の治療法はない。

 大阪大の伊川正人教授(生殖医学)らの研究チームは、未成熟な精巣を体外で培養し、精子を作る研究を始めた。同大はマウスで子どもを産ませることに成功しており、サルなどの動物で研究を進める。同大の林克彦教授らがiPS細胞から精子を取り囲む細胞を作り、体外で精巣の環境を再現して、人間の精子を成熟させる技術を確立する。

 米ペンシルベニア大は人工的に成熟させた精子に異常が起きないかを調べ、米ベイラー医科大は精子を正常に育てる薬剤を探し、不妊治療の安全性を高める。国内チームはAMED(日本医療研究開発機構)、米国チームはNIH(米国立衛生研究所)の支援を受けて研究を進める。

 現在の男児患者が成長して適齢期となる20年後をめどに、育てた精子を体外受精させたり、精巣の細胞を移植したりする不妊治療の実用化をめざす。男児の精巣バンクには複数の国公立大が参加を検討している。

 国立がん研究センターによると、0~14歳の男児は年間約1000人が小児がんと診断されている。精巣バンクの登録は年間10人程度から始める計画だ。

  がん患者への生殖補助医療に詳しい吉村泰典・慶応大名誉教授の話 「小児がん患者の生存率が大きく向上し、将来の不妊治療へのニーズが高まっている。実験動物とは精子が成熟する仕組みが異なるなど課題はあるが、10年以上先なら実現する可能性は高く、患者や家族の大きな希望になる」