医療ニュース 2024.06.18

【独自】脳死疑い患者は年1万人、実際の「判定」は132人どまり…臓器提供者増やせる可能性

厚労省が初推計

 脳卒中や不慮の事故などが招く脳死の可能性がある患者が、2023年の1年間に、国内で少なくとも約1万人にのぼったとする初の推計結果を、厚生労働省の研究班がまとめた。同年、臓器提供のために脳死と判定されたのは132人にとどまっている。研究班は、医師らが家族に臓器提供の選択肢を示すことが増えれば、提供者(ドナー)を相当数増やせる可能性があるとしている。

 研究班は日本医大(東京)などの医師らで構成、脳死判定を行える大学病院や救急病院など895か所に昨年8月、調査を実施した。

 調査では、同月3日からの1週間に〈1〉意識不明で瞳孔が開いている〈2〉適切な治療をしても病状の回復が見られない――など脳死の可能性を示す4項目を満たす患者数を尋ねた。有効回答があった601か所(67%)では計184人いた。

 この結果を踏まえ、回答施設だけでも脳死の可能性がある患者は年間9568人いると推計した。

 脳死判定は、臓器移植法に基づき行われる。患者の家族の承諾が必要だが、医師が家族に臓器提供の選択肢を示すことは少ない。

 背景には、救命に尽くしている医療者は時間的な余裕がないほか、回復が難しい事実の告知に心理的な抵抗を感じることがある。法的脳死判定の前に必要な検査をしても、医療機関に追加の診療報酬が支払われないことも指摘されている。

 脳死ドナーになるには、臓器に問題がない、がんや感染症でないなどの医学的条件もある。年齢も、肺や腎臓は70歳以下など臓器ごとの目安がある。研究班代表の横堀将司・日本医大教授(救急医学)は「今回推計された脳死の可能性がある人がみなドナーになれるわけではないが、取り組み次第で、脳死下の臓器提供件数を増やし、より多くの命を救える可能性が示された」と話している。

 脳死ドナーからの臓器提供を巡っては、東京大など移植手術の実績が上位にある病院で、人員や病床の不足などから、提供された臓器の受け入れを断念する事例が問題になっている。横堀教授は「脳死判定までの様々なハードルを下げる対策と合わせ、移植医療の 逼迫ひっぱく を防ぐ体制作りが必要だ」と指摘した。

  ◆脳死 =脳全体の機能が失われ、治療で回復する可能性がない状態。脳卒中や、交通事故による頭部損傷などが原因となり、多くは数日以内に心停止に至る。1997年10月に臓器移植法が施行され、脳死となった人からの心臓、肺、肝臓、腎臓、 膵臓すいぞう 、小腸、眼球の提供が認められた。