医療ニュース 2024.02.09

日本で発生例ないアフリカ豚熱、韓国で感染拡大…農水省が水際対策強化「いったん侵入すれば全国に広がる」

 日本では発生例のない家畜伝染病「アフリカ豚熱(ASF)」が日本に近い韓国南部で拡大し、農林水産省が警戒を強めている。人には感染しないものの、ワクチンがなく、日本で広がれば養豚業に大きな被害が生じる恐れがある。同省は、ウイルスの侵入リスクが高まっているとして、港や空港での持ち込み品検査や消毒の徹底など水際対策を強化している。(浜田萌、西部社会部 今泉遼)

■「なんとか防ぐ」

 「ご協力をよろしくお願いします」「カムサハムニダ(ありがとう)」

 今月8日、韓国に最も近い長崎県対馬市にある比田勝港の国際ターミナル。同省動物検疫所の職員らが、韓国の 釜山プサン から訪れた旅行客に声を掛け、「肉製品持ち込み禁止」とハングルや英語で書かれたポケットティッシュを手渡していた。

 ASFウイルスは、肉製品や人に付着して国内に持ち込まれる恐れがある。同港では1月から、家畜防疫官を1人から2人に増員し、検疫態勢を強化した。この日は、検疫探知犬も初めて投入。肉入りの韓国のり巻き「キンパ」を持ち込もうとした客に廃棄させたという。

 動物検疫所博多出張所(福岡市)の 田上たがみ 勝則所長は「ウイルスがいったん侵入すれば全国に広がってしまう可能性があり、なんとか防ぎたい」と話す。

 東京・羽田空港でも7日、動物検疫への協力を求める啓発キャンペーンが行われた。10日から中国の春節(旧正月)の休暇が始まり、出入国者の増加が見込まれるためで、動物検疫所羽田空港支所の新堀均次長は「水際対策を徹底するため、検疫と広報の両輪を強化していく」と力を込めた。

■「大打撃」

 同省によると、ASFは、すでに国内で発生している「豚熱(CSF)」とは異なり、有効なワクチンや治療法がない。豚とイノシシが感染すると致死率はほぼ100%とされる。79か国・地域で発生が報告されていて、アジアでは2018年に中国で確認されて以降、日本と台湾を除く全域に拡大した。

 韓国では19年に初めて発生し、南部の釜山で昨年12月、野生イノシシの感染が初確認された。さらに、1月下旬以降、大阪や福岡などとの定期航路がある釜山の港付近で、ASFに感染した野生イノシシが相次いで見つかり、日本への侵入リスクが高まっている。

 坂本農相は9日の閣議後記者会見で「ひとたび侵入すれば、我が国の畜産業が大打撃を受ける」と危機感をあらわにし、水際での検疫を強化する考えを示した。

 宮崎市の養豚会社「日高スワイン」専務の日高省三さん(69)は「ウイルスの侵入はもはや時間の問題」と感じている。九州は豚の飼育頭数が全国の約3割を占める「養豚王国」。同社では宮崎県内の4農場で約1万3000頭の豚を飼育していて、日高さんは「農場に入らないよう最大限の警戒を続ける」と気を引き締める。

■消毒徹底

 ASFウイルスは、精肉やハムなどの加工品で3か月から1年近く、冷凍肉だと数年単位で感染力を持つとされる。動物検疫所が渡航者の持ち込み品を検査したところ、18年10月から24年1月末までに、ASFウイルスの遺伝子が134件検出され、うち4件ではウイルスが感染力を持ったままだった。

 このため、同省は、旅行者らに対して、肉の入った食品を違法に持ち込まないよう呼びかけている。屋外に放置された肉製品を野生イノシシが食べて感染するのを防ぐため、キャンプ場などでは、余った肉や食べ残しを野外に捨てずに適切に廃棄するよう注意喚起している。

 また、靴底についたウイルスが国内に入り込まないよう、水際での消毒を強化。空港や港に設置された靴底用の消毒マットについて、1月から消毒液の濃度を高める措置をとった。フェリーにのせた自転車や車の消毒も行っている。

 同省によると、ASFが広がった中国では19年に殺処分などにより飼育豚が減り、豚肉価格が2倍以上になったという。同省幹部は「ASFが発生すると、経済的なダメージも大きい。安易に肉製品を持ち込まず、一人一人がウイルスの侵入防止への意識を持ってほしい」と話している。

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