医療ニュース 2023.12.26

メンタルヘルス検定、受検者が16年で5倍に…「心を病む人」増加で管理職に推奨する企業も

 心の不調に対処する方法を学ぶ「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」の受検者が増えている。昨年度は全国で約5万人が申し込み、開始から16年で約5倍に増加した。職場のストレスなどで心を病む人が多くなっていることが背景にあり、管理職に受検を推奨する企業もある。(大森篤志)

試験は3種類

 「検定で身につけた知識があったから、適切に対応できた」。クッキーの製造販売会社「アントステラ」門真センター(大阪府門真市)に勤める 悴山かせやま 健二さん(55)は、そう振り返る。

 合格したのは、労務管理の担当だった2014年11月。その後、職場内の人間関係の悩みからアルバイトの男性が休職した際、家族を介して男性からの相談に乗り、復職プログラムなどの制度についても説明したところ、男性や家族から感謝され、男性は職場に復帰したという。

 検定試験は、大阪商工会議所(大商)が06年10月から始めた。長時間労働などで労働者のストレスが拡大しているとして、厚生労働省が職場でのメンタルヘルスケアの指針を策定したことを受けたものだ。

 一般社員、管理職、人事労務担当向けの3種があり、産業医や弁護士らが問題を作成。微熱が出るなど心の不調が原因の症状や、専門医への受診を促すなど上司としての適切な対応に関する知識が問われる。年2回、大阪や東京、広島など全国15都道府県で行われ、受検料は4220~1万1550円。事前に勉強するためのテキストも販売している。

 申し込みは右肩上がりで増え、22年度は検定試験が始まった06年度の4・8倍の5万489人。管理職向けの伸びが5・4倍と大きい。ポータルサイト「日本の資格・検定」が利用者へのアンケートなどを基に集計した22年度の検索回数ランキングで3位となり、初めてトップ10入りした。

 合格者は累計で約32万6000人。合格率は一般社員向けが7割前後、管理職向けが5割、人事労務担当向けが2割弱という。

労災認定、過去最多

 検定の利用が進む背景には、心の不調に苦しむ人が増えていることがある。厚労省によると、精神障害での労災認定は22年度が710件で過去最多となり、06年度(205件)の3・5倍に増えた。

増加の理由について、山本晴義・横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長は「長時間労働は人手不足で解決しておらず、ストレスをためやすい職場環境になっている。コロナ禍で悩み、孤立を深めた労働者も多い」と指摘する。

 労働契約法は、労働者が健康や安全を確保しながら働けるよう使用者の安全配慮義務を定めている。違反した場合、使用者が高額の損害賠償を求められることもある。JR西日本の男性社員(当時28歳)が長時間労働でうつ病を発症して自殺したケースでは、大阪地裁が15年3月、同社に対し、遺族に約1億円を支払うよう命じた。

 大商人材開発部で検定を担当する山崎千尋さん(24)は「従業員が心を病むと、生産性の低下を招くだけでなく、対外的なイメージダウンにもなるという認識が浸透してきた」と指摘する。

取得率98%

 組織全体で受検を勧める企業もある。

 大同生命保険(大阪市)は17年から、係長などの一定の職位以上に取得を推奨している。今年3月時点で取得している人は対象者1893人中1861人(取得率98・3%)に上る。

 同社の担当者は「企業が成長するには、従業員1人ひとりが心身ともに健康であることが必要だ。資格を取ることで、普段と違う部下の様子に気づくことの大切さなどに対する意識が高まった」と話す。

 日本郵便(東京)は19年10月から「業務に役立つ資格を取得した社員の努力に報いる」として、合格者に報奨金を出しているという。