記事・コラム 2025.09.15

地域医療を担う人材育成

第14回 専攻医に対して、指導医が心がけるべきこと

講師 石井 正

東北大学 卒後研修センター

1963年に東京都世田谷区で生まれる。1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。

最近の専攻医の先生方をご覧になって、いかがですか。

私どもの総合診療科では前回お話ししたように、専攻医をまずは気仙沼市立病院附属本吉医院にお預けするので、そこまで関わってはいないのですが、皆とても真面目です。私は若手肯定派なんです(笑)。よく「近頃の若い者は…」という人がいますが、私はそれは違うと思います。昔から言われていて、飲み会などではよく使われるネタに古代エジプトの落書きがあります。古代エジプトでスフィンクスを作った職人さんが「近頃の若い者は…」と愚痴のような落書きをスフィンクスの横腹に残していたというものですが、それと同じようなものですね。専攻医は皆、一生懸命にやっていますし、私は不満はないですね。

専攻医に対して、指導医として心がけていることを教えてください。

あまりないのですが、なるべく本人の希望に沿うことと、総合診療科に来てくれた専攻医が良いキャリアを積めるように十分に腐心することでしょうか。それから、聞かれたことに対しては私が分からないことでも一緒に調べるなどして、きちんと答えることを意識しています。

専攻医を教える指導医はどうあるべきでしょうか。

基本的には初期研修医と同じです。ただ、専攻医にはよりマニアックなことを教えなくてはいけません。でも外科に関しては専攻医研修が終わったからと言っても全てのことを一人でできるわけではありません。専攻医研修が終わった次年度は卒後6年目ですし、まだ教育が必要な年代です。それでも専攻医に伝えるべきことは「もうすぐ下を教える立場になるんだからね」ということです。結局、部活動と同じです。教育学で言われている能力開発のピラミッドのようなものの一番下にあるのは「知る」、その次は「分かる」、その次は「できる」で、一番上は「人に教えられる」ことなんですね。人に教えるとなると勉強もしなくてはいけないし、スキルも高くないといけません。そのため、「人に教える立場になるんだよ」と伝えることは意味があると思います。

新専門医制度が始まって、女性は妊娠や出産の問題が出てきたと言われています。

東北大学では教育の区切りを学位を取るまでとしています。専攻医と言っても初期研修のあとの後期研修みたいなものなので、それは今も昔も変わらない印象があります。新専門医制度になって専門医を取りづらくなったということもあまりないようです。大きく変わったのは休めないことでしょうか。以前の制度では例えば外科だと、どこの施設でもいいから症例をとにかく集積して、ある程度溜まったら試験を受けるみたいな流れだったので、ゆるゆると研修できました。でも今のプログラムだと3年で取らなくてはいけなくなったということですね。でも出産などであれば、その期間を延長できるのではないかと思います。

サブスペシャリティの専門医を取るのも大変ですね。

外科の場合は外科専門医を取って、さらに消化器外科専門医になるには症例やキャリアを積んでいく必要があります。ただ、キャリア形成のラダーの難易度に関しては以前とそんなに変わらないという印象を持っています。

キャリアパスをどのように考えていくべきか、個人によりますか。

そうです。中高一貫校には6年間のカリキュラムがあり、中高一貫校を卒業した学生に「どうだった」と聞くと、たいがい「良かったです」と言います。そこで、私たちも中高一貫校の教育のようにカリキュラムを作ってキャリアを積んでもらおうと考えています。別に大学病院での研修を強制しているわけではありません。関連病院も豊富にありますので、そこで研修したあとで大学院に入り、学位を取ってもいいです。専門研修中に大学院に入ることもできます。東北大学には東北メディカル・メガバンクがあるなど、研究リソースも充実しています。専門医療も最先端研究も地域医療も留学も可能なカリキュラムとなっていますので、東北大学の学生には勧めているところです。

選択肢が豊富なのですね。

東北大学では「フィジシャン・サイエンティスト」を目指してほしいと思っています。そこで学生には「君たちは知的好奇心が強いのだから、人はどうやって生きているのか、診療をしながら解明してみないか」と声をかけています。診療の中で出会ったクリニカルクエスチョンを見つけ、それを研究すると、知的欲求を満たしながら臨床医としてのキャリアを積んでいけます。そういう人たちがこれからの東北大学を支えていくわけです。東北大学は研究だけをしろとは言っていません。

東北大学と言えば、「研究第一」ですね。

新入生に「どうして東北大学を受けたのですか」と聞くと、皆が判で押したように「研究が…」と言いますが、卒業を控えた学生に「何で卒業後すぐに基礎に行かないのか」と聞くと、皆が嫌な顔をします(笑)。そこで「嘘だよ、嘘。臨床に進むのは全く構わない。でも東北大学に来たからには人は何で生きているのかに好奇心を持ち、そのメカニズムを解明するような研究をしてほしい」と言っています。それも臨床の中から「どうして、こうなるんだろう」という疑問を見つけること、その疑問はどのようなことでもいいので、それを研究していけば、楽しい医師人生を送れるのではないかとお勧めしています。自慢になりますが、東北大学の学生は知的好奇心が強く、優秀です。しかも物怖じしないんですよ。1年次の導入の講義で入試配点に占める共通テストの点数の割合が少ないので「共通テストをしくじったから東北大学を受けた人は?」と質問すると、5、6人が「はーい」と平気で手を挙げるんです(笑)。私としては東北大学の学生のそういう姿をいいなあと思っています。面白くて、大好きですね。ほとんどの学生が部活動も普通にやっていますし、私たちの頃よりも優秀なので、未来は明るいと思っています。

先生のご子息も専攻医でいらっしゃいますね。

日頃、連絡もないので、元気かどうかも知らないのですが(笑)、泌尿器科の専攻医をしています。なぜ泌尿器科を選んだのかと聞いたときには「骨盤内手術をやりたいから」ときちんと話してくれて、色々と考えているんだなと思いました。私としては子どもには留学してほしいと思います。私もそこに遊びに行きたいですしね(笑)。

専攻医を指導する指導医の先生方にメッセージをお願いします。

個人的に考えていることですが、指導医の先生方には「この専攻医は一定のクオリティに達している」という前提で付き合ってほしいです。私の知っている範囲では今の若い人たちは優秀だし、よくできる人たちです。だから「お前たちはできねえな」「できないから、俺が鍛えてやる」ではなく、優秀だという前提で指導するほうが伸びるのではないかと感じています。私が「誉めて育てる」と言うと、石巻赤十字病院にいた研修医からは「先生、石巻ではそんなことを一言も言わなかったですよね」「大人げないから、小学生というあだ名でしたよね」と怒られそうですが、今の実感としてはそう思います。