記事・コラム 2025.03.15

地域医療を担う人材育成

第8回 初期研修医へのメッセージ その2

講師 石井 正

東北大学 卒後研修センター

1963年に東京都世田谷区で生まれる。1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。

初期研修医にとって、救急外来での研修は大切なものであり、救急外来は初期研修医が輝ける場所だとも聞きます。

「救急外来の研修は怖い」と言う研修医もいますし、救急外来の研修が好きな研修医もいますので、二極化しているようです。救急外来には次から次へとよく分からない患者さんが来ますので、「怖い」と言う研修医のことも理解できますし、どちらが良い悪いではなく、両方が正しいのだと思います。

そこで、救急外来での研修で心がけることは単純に「断らない」ことです。断ると楽ですが、断らないことには勇気が必要です。都会であれば、ほかに病院がありますから断りやすいのですが、郊外や地方の中核病院はほかに行きようがないので、断れないんです。石巻赤十字病院もそうでした。ほかに行きようがないから断らないということですね。

ほかにもありますか。

「思い込みは危険」ということも挙げられます。「こういう症状だから、大したことないな」と思い込み、検査もしないで「帰します」という場合もあると思いますが、実はそういう病態ではなかったというケースもありえますので、「ほかに、これは大丈夫なの」「本当に大丈夫かな」という執念深さが求められます。

石巻赤十字病院にいた頃に、私が手術した患者さんの術後のフォローアップ外来をしていると、患者さんは麻痺もなく、歩いたりもできるのに、私が話した内容が通じないし、患者さんも筋が通らないことを言っていたことがあったんです。消化器がん手術のフォローアップ外来では脳CTを撮ったりすることはまずありませんが、そのときはCTを撮ってみると、慢性硬膜外血腫が見つかりました。これはあるあるのケースですが、よく話を伺ってみると、転倒して、頭を打ったことがあったのだそうです。それで慢性硬膜外血腫になって、脳室が圧迫されていました。

その頃、石巻赤十字病院の脳神経外科部長がテニス部の後輩をしてまして、その後輩に依頼して、すぐに手術ということになりましたが、局所麻酔で血腫を抜くだけでしたので、すぐに治りました。簡単に言うと、「慢心をしないこと」「思い込まないこと」ですね。でも初期研修医には難しいかもしれません。救急外来に少し慣れてくると、「大丈夫、大丈夫」で帰しがちです。

帰すか、帰さないかの判断が難しいとよく聞きます。

それはうまく説明できないのですが、医師を10年ぐらいやっていると嗅覚が発達するんです。「これ、何かおかしいんじゃないか」「ちょっと変だな」みたいな感覚で、嗅覚としか説明できないですね。それで「念のため、検査してみますか」と検査すると、やはり病気だったということがあります。もちろん外れることもありますよ。ただ、その嗅覚が研修医にはありません。それで教科書に書いてあるような理学所見だけで「大丈夫、大丈夫」と帰すことになりますが、それは気をつけたほうがいいです。一方で、教科書には無闇矢鱈と検査をするなと書いてありますが、私は違う意見を持っています。

先生のご意見をお聞かせください。

総合診療医として熟練されている先生方は理学所見を取るだけで、ある程度の病気を診断できると思いますが、それはエキスパートのスキルであり、特殊技能なんです。それが広く一般に普及するかと言うと、難しいんですよ。反射などの理学所見は特に分かりにくいです。全ての患者さんに採血検査や画像検査をしていくのはおかしいですが、サイエンスとして、ある程度の検査をしていくことはいいのではないかと思います。

では改めて、初期研修が始まったばかりの研修医の先生方に向けて、救急外来での心構えをお伝えください。

とりあえず、断らないで診ましょうということですね。最初は分からないことが多くありますから、指導医や上級医に相談することになるでしょうが、そのときには皆さんがお持ちのスマートフォンやiPadなどを使って、ある程度のことをささっと調べたうえで、「私はこう思うのですが、どうですか」という聞き方で上級医もしくは指導医に質問するようにしましょうということもお伝えしたいです。