記事・コラム 2022.02.15

地域医療を支えた東北大学病院の教え

【2022年2月】宮城県抗体カクテル療法センター

講師 石井 正

東北大学 卒後研修センター

1963年に東京都世田谷区で生まれる。

1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。

1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。

2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。

2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。

2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。

2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。

2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。

現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。

宮城県抗体カクテル療法センターとはどういったものですか。

 新型コロナウイルス感染症の軽症の方に対して、抗体カクテルを集約的、かつ効果的に投与することで重症化を予防することが目的です。これを宿泊療養施設内に設置しました。

宿泊療養施設に医療機能が付いているのですよね。

 そうです。その医療機能付きホテルは東北大学病院でサポートしています。そこに入られた全ての方に説明し、同意をいただいたあとで、東北大学病院の患者IDを発行し、東北大学病院の患者さんとして往診できる体制を作りました。閉鎖空間では具合が悪くなって、急変した人を見つけられないので、酸素飽和度を遠隔で監視できる装置も設置しました。重症になると、事務局のモニターが反応するんです。ホテルには東北大学病院の電子カルテ端末もあり、毎日、東北大学病院の医事課の職員が事務処理の手伝いに来ていました。そのホテルの2階にカクテル療法センターを作ることになったんです。そして、センター長をどうするのかという話になりました。

提供元:東北大学病院

どのように決められたのですか。

 カクテル療法で使う薬剤は人工抗体なので、抗がん剤によく似ているんです。そこで、腫瘍内科は外来で化学療法を担当していますから、infusion reactionへの対応など、カクテル療法センターで起こりえることと似ていることをしていて、慣れていることもあり、腫瘍内科長の石岡千加史教授にセンター長をお願いすることになりました。

先生もそのあたりについてご存知だったのでしょうか?

 腫瘍内科が今のように発達する以前は外科の医師が術後や再発時の化学療法をしていた時代があり、石巻赤十字病院外科時代に私も担当していました。国立がんセンター病院にも3カ月、行っていましたし、療法についてはよく知っています。それで冨永病院長ともご相談し、腫瘍内科の教授でいらっしゃる石岡先生にお願いにいったところ、二つ返事で「いいよ」と言ってくださいました。そして、何と素晴らしいことに、石岡先生も副病院長でいらっしゃるので、とても座りの良い体制になりました。つまり、宮城県新型コロナウイルス感染症医療調整本部の本部長は冨永悌二病院長、東北大学ワクチン接種センターのセンター長は張替秀郎副病院長、宮城県抗体カクテル療法センターのセンター長は石岡副病院長になりました。センター長は記者会見をしたり、インタビューを受けたりしますが、私はカーテンの影に隠れていられます(笑)。そうすると、宮城県の新型コロナウイルス感染制御において、行政と色々な方針を決める仕組みのトップが冨永病院長であり、実際の作用点である2つのセンターのセンター長を東北大学病院の副病院長が務めているのは盤石な体制になるわけです。

提供元:東北大学病院

抗体カクテル療法センターの内容について、お聞かせください。

 対象は新型コロナウイルス感染症の軽症者の方々です。発症後7日以内、高齢だったり、基礎疾患がおありで重症化リスクがあったり、酸素投与が不要といった条件に該当する患者さんを宮城県新型コロナウイルス感染症医療調整本部でピックアップします。治療が必要となった患者さんには中和抗体であるカシリマビブとイムデビマブの2種類の薬剤を同時に点滴します。治療は約30分で、1時間の経過観察をします。治療後は再び宿泊療養施設で療養します。こうした抗体薬の点滴を受けることで、症状の重症化を防げます。

提供元:東北大学病院

スタッフの配置をどのように決められたのですか。

 東北大学病院から医師、看護師、薬剤師を派遣することになりました。その他医師は東北大学病院のほか、宮城県内の5つの医療機関に輪番で支援していただきました。医師2人、看護師3人、薬剤師1人が従事し、8台のベッドを置き、1日2回転、最大16人の点滴治療を行いました。

振り返られて、いかがですか。

 医療の負担を軽減するには重症の患者さんをいかに少なくするかが課題でしたので、このセンターは一定の役割を果たせたと思っています。

高齢者施設支援体制

高齢者施設の支援体制についても、お聞かせください。

 第4波のときに開始しました。日本DMAT事務局次長の近藤久禎先生が作ってくださった仕組みを引き継いだものです。関係医療機関の医療者に手挙げ方式で登録していただき、チームを作っています。近藤先生はダイヤモンド・プリンセス号でも診療された方で、高齢者施設でクラスターが出た場合の対応も経験されています。高齢者施設で感染者が出ると、クラスターになる可能性がありますが、施設を完全に閉じてしまうと、入居コロナ陽性者の方の受け入れ先の確保が必要になり、その結果入院ベッドの負担が高くなります。したがって、施設には継続していただいて、感染者をなるべく入院させず、その施設の動線を分けたり、往診に行くなどのケアをするわけです。具合が悪くなった方にはもちろん入院していただきます。そのためには多職種での支援が求められますが、近藤先生はそうした仕組み作りを色々な地域で実践されていたので、宮城県にも来てくださったんです。私は以前から近藤先生と親しくさせていただいていたので、スムーズに引き継げました。

引き継いでみて、いかがでしたか。

 第4波でクラスターが起きたときは動線を分けるといったことは比較的容易でしたが、その後の疲弊した施設で物資の調達や感染対策をサポートしたり、往診や処方をするためのマンパワーを確保するのは大変でした。それでも県外からお手伝いに来てくださる方や仙台市立病院の精神科の先生方などにも助けていただいて、何とかなりました。しかし、第5波のときは県外からの応援もありませんし、それぞれの登録支援者の所属する病院もコロナ対応で手一杯でしたので、クラスターが起きることが心配でした。人手の確保に関しては冨永先生にお願いしようかと思っていたところ、ワクチン接種が進んでいたためか、そういう事態に陥ることはありませんでした。