
講師 舩越 園子
フリーライター
東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。
在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。
『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。
アトランタ、フロリダ、NY、ロサンゼルスを経て、現在は日本が拠点。
医療関係者にはゴルフ好きが多いと聞いているので、今、このコラムを読んでくださっている方々も「きっと、ゴルフ好き?」と思いながら筆を執っている。
グリーン攻略の必需品、グリーンブック
みなさんは18ホールそれぞれの距離やハザードの配置、グリーンの形状などが記されているヤーデージブックをご存じだと思うのだが、欧米ツアーの現場には、それとは別にもう1冊、グリーンブックなるものが存在することをご存じだろうか。
グリーンブックには、その名の通り、グリーンに関する詳細情報が記されている。とはいえ、これはツアー側が用意する公式なものではなく、どこかの誰か、おそらくは引退した元選手や元キャディらが自分たちのプロフェッショナルな目や経験を生かし、グリーンの傾斜や芝目、スピード等々のきめ細かな情報を記号と数字で書き記して現役選手のために1冊100ドルで販売しているもの。平たく言えば、グリーン攻略のためのアンチョコだ。
攻略本とにらめっこ、それってプロなの?

プロフェッショナルらしさは細部に現れる
それじゃあ、プロらしさって何だろうと考えると、職務を全うし、向上を図るためのその人自身の努力や姿勢の在り方、プロ意識の在り方というような大真面目な話になるのだろうが、そうではなく、傍から見て感じ取るプロらしさというものは、案外、些細なところに垣間見える。
10年ほど前、私はニューヨークの病院で子宮頸がんと診断され、一時帰国して東京都内の大学病院で手術を受けた。ゴルフジャーナリストでありながら、そのときの体験も活字にしようと考えていた私は、主治医の先生の動きを秘かに観察し、ある日、自分の小さな発見をちょっぴり誇らしげに先生に告げた。
「先生は立っているとき、胸の前で腕を組み、左右の手を左右それぞれの脇の下に挟む癖がありますよね?」
すると、先生は苦笑しながら「よく見てるなあ。でも、それは癖ではない。そうしたほうが空中のホコリから手を守れるからね」。なるほど。知識が無いまま眺めるとトンチンカンな見方をしてしまうようだが、ちょっとした仕草にも実は深い意味があることを知ったとき、プロらしいなあと感心させられた。
「プロらしさ」って何だ?
グリーンブックは見る人が見れば垂涎もののアンチョコで、それを自分のプレーの参考にすることはプロとしての作業の1つと言えるのだと思う。しかし、最近はこれを眺めることに時間がかかりすぎてスロープレーの原因になっている。英国人選手のイアン・ポールターは、彼自身も愛用しているグリーンブックを「スロープレー撲滅のためにも禁止にすべきだ」と声を上げ、ルールをつかさどる米国のUSGA、欧州のR&Aはグリーンブックの使用を2019年から禁止する提言を発表したばかり。そうなった背景には「スロープレー撲滅のため」もさることながら「プロらしくないから」という想いもあるのだと思う。
優勝争いの大詰めで真剣な眼差しでラインを読む選手の姿にはドキドキさせられる。だが、視線の先がグリーンではなくグリーンブックばかりでは興ざめしてしまう。プロゴルファーはプロゴルファーらしく、自分自身の確かな技術と研ぎ澄まされた五感を頼りに、堂々と戦う姿を披露してほしいではないか。
そして、病気になったときに頼りにするお医者さまには、お医者さまらしく、堂々としていていただきたいと思うのだが、「医者らしさ」と聞いて思い浮かべるのは、やっぱり白衣。私の高校時代のクラスメートで現在は大学病院で外科医をしている友人は「動きやすいから」という、なんともプロらしい理由で、いつもジャケットぐらいの短い丈の白衣を着ている。だが、「この前、病院のレストランでボーイと間違われちゃった」と苦笑い。
いやいや、「らしさ」というものは、いろんな意味で難しい。
【著者からのご挨拶】
はじめまして。舩越園子です。今回は連載初回ということで、医師の方々と私あるいはゴルフとの接点を探る内容のコラムを書かせていただきました。次回からは、欧米ツアーのプロゴルファーを取り上げ、彼らの医療や福祉、社会との接点を探りつつ、彼らの姿勢や活動を紹介していくようなコラムを書かせていただこうと思っています。みなさん、どうぞよろしくお願い致します。