記事・コラム 2017.06.01

高原剛一郎の専門家しか知らない中東情勢 裏のウラ

【第十五回】2017年後半、日本に直接関わる国際情勢トピックス

講師 高原 剛一郎

大阪ヘブル研究所

1960年名古屋出身。大阪教育大学教育学部卒業後、商社にて10年間営業マンとして勤務。
現在では大阪ヘブル研究所主任研究員として活動。イスラエル、中国を中心とした独自の情報収集に基づく講演は、財界でも注目を浴び、外交評論家としても知られている。

2017年の下半期、わが国に直接関わる国際情勢のトピックスは次の3点である。

1.北朝鮮の核、ミサイル開発を断念させることはできない。

トランプ大統領は、中国を使って北朝鮮に核ミサイル開発を諦めさせようとしている。北朝鮮の貿易の9割を占めている中国は、生殺与奪の権を握っている。実際に、中国は国連でも北朝鮮を声高に非難している。それに対して北朝鮮はますます反発を強め、ミサイル実験を一向に止める気配がない。見かけ上は中国と北朝鮮が、激しく対立しているように見える。だが実際はお互いに助け合っているのだ。北朝鮮がアメリカを中心とする国際社会の圧力をものともせず、暴走すればするほど、国際社会は北朝鮮の説得を中国に依存するようになる。北朝鮮の無法ぶりは、かえって中国の地位と発言力向上に寄与しているのだ。中国も表向きは、北朝鮮への経済制裁に乗り出している。だが陸続きで国境を接している両国は、いくらでも地下貿易をすることができる。北朝鮮の軍事パレードで登場した、ミサイルを搭載した大型運搬車は、中国東北地方の自動車メーカーが作ったものだ。抜け道はいくらでもあるのだ。

国際関係理論の鉄則の1つは、最悪の状態が起こったとき最小のダメージで抑えることである。
朝鮮半島には2つのシナリオがある。
強大な南北統一国家の出現か、互いの力を相殺し合う南北分断国家のままでいることである。
中国にとって、前者の場合、最悪の事態は『統一朝鮮国家が反中国になること』である。後者の場合、最悪の事態は『分断国家で反中国の体制が残ること』だ。だがこの両者を比べたときには、後者の方がまだダメージが小さいと言える。なぜなら分断国家のままであれば、その国力は統一国家であるよりもはるかに小さいからだ。それに分断国家状態の方が、統一国家に対するよりもはるかに中国の影響を及ぼすことができる。
だから、中国にとっては分断国家状態を維持することこそが最重要課題なのだ。トランプ大統領がいかに圧力をかけようとも、中国は面従腹背するだけだ。中国は何があっても分断国家状態を維持する側に回るだろう。つまり北朝鮮を守る。ただし、これは金正恩体制を守ると言うことではない。中国の意のままに動く体制に転換するため、北朝鮮の首領のすげ替えをする可能性はある。北朝鮮の長距離ミサイル開発に危機感を抱いたトランプ政権が、北朝鮮に先制攻撃を加える可能性はある。だがその場合、中国と密かに話をつけた上で攻撃に踏み切る可能性が高い。
中朝間には「中朝友好協力援助条約」が締結されている。この条約の中には「一方が他国から攻撃された場合、もう一方は自動的に参戦する」条項が入っている。これはアメリカが北朝鮮を攻撃したときに、中国が北朝鮮に介入する口実として利用されるに違いない。北朝鮮をめぐって米中が戦争をする事は両国とも望まないことである。

中国が北朝鮮を守り、かつ、アメリカが手をこまねいて軍事行動を取らなかった場合はどうなるだろう。北朝鮮の核兵器はいずれ完成し、核弾頭を搭載するミサイルも完成することだろう。
そのようなことをアメリカが見過ごすだろうか? ところが、これがありえない話ではないのだ。
なぜなら、アメリカが恐れているのは『北朝鮮がアメリカに直接届く核ミサイルを持つこと』だからだ。たとえ核兵器を所有したとしても、アメリカにまで届くミサイルを持たないのであれば構わない、と言う結論に至るかもしれない。何しろ今のアメリカは、「アメリカファースト」が露骨なまでに追求される国だからだ。
これは日本にとって最悪の事態である。だから日本も、最悪の事態になった時に最小のダメージで抑えることを考えねばならない。
アメリカによる抑止力が弱まる時、日本が核兵器を持たずに核保有国に対して抑止力を持つために、何をしたら良いのかを考えることだ。
北朝鮮のミサイル攻撃に対して、ただ撃ち落とすだけの対応ではなく、北朝鮮の主要施設に日本からのミサイルを一斉に打ち込む反撃能力を構築することなどが解の1つになるように思う。

2.シリア・イラクにまたがる領域を支配するイスラム国は、米露の共同作戦で風前の灯火になる。

しかしこれは、そのまま世界平和に結びつくことにはならない。
イスラム国(ISIS)は、空気の抜けかけた風船のようなものである。風船の1部をつかんで握ると、他の部分が大きく膨らむようになる。
そのようにシリア、イラクでのイスラム国追放は、その他のエリアでのイスラム国によるテロ活動の拡散に発展する。すでにヨーロッパでは、各地でイスラム国によるテロが続出している。この流れは今後アジアに来る。
実は世界最大のイスラム人口大国はインドネシアだ。第2位はパキスタン、第3位はインドだ。イスラム大国ベストスリーは中東ではなくアジアなのだ。
シリア・イラクにいるイスラム国戦士は、そこに留まって狙い撃ちにあって全滅されるよりも、世界に飛散する。
既にインドネシアやフィリピンなどではイスラム国によるテロが続発している。
さらに、中国に向けたテロ予告がなされている。新疆ウイグル自治区では多くのイスラム教徒が中国共産党によって大弾圧されているからだ。
イスラム国で戦闘員としてのスキルを身につけたウイグル人たちが中国に舞い戻ってテロ活動に入る可能性は濃厚だ。そしてさらにその先には、東京オリンピックを控えた日本があるのだ。

3.四年後にトランプ大統領は大統領であり続けているか?

アメリカ政治史上最大のスキャンダル、ウォーターゲート事件をもじって名付けられたいわゆる『ロシアゲート事件』。
昨年の大統領選挙期間中、アメリカ民主党のコンピュータがサイバー攻撃を受け、ヒラリー・クリントンを貶めるメールが次々と流出した。これはロシアからのサイバー攻撃によるものだというのがアメリカの情報機関の結論だが、問題は、このサイバー攻撃にトランプ陣営が関わった疑惑が持ち上がっており、そして、この事件を捜査するFBI長官がトランプ大統領によって突如解任されたために、マスコミが大騒ぎしているのだ。
事の真偽についてはこれからの捜査を待たねばならないが、トランプ陣営が親ロシアであるのは疑いようもない。というのも、アメリカにとって最大の脅威となっている中国を牽制するためには、ロシアをアメリカ側に引き寄せることが何よりも効率的・戦略的であるからだ。
筆者もその着眼点は正しいと思う。だが、もし大統領自らが司法妨害に関わったとするならば、弾劾の可能性が出てくる。その可能性は現在では高くはないと思うが、万一トランプが途中で職を追われることになった場合をも考えておかねばならない。そうなった場合、副大統領マイク・ペンスが大統領になる。そして、この人物は良識のあるバランスのとれた共和党保守本流という人物評価で、副大統領になった。つまり、アメリカの共和党では、初めからトランプが途中で降りたときのことも想定して、副大統領候補に彼を送り込んだのだ。
彼の歴史観は、聖書に由来している。形だけのキリスト教徒ではなく、100%創造主たる神のことばを信じる人物だ。今からでも遅くはない。バイブルの世界観の勉強に取り組むことをおすすめしたいと思う。

読者の皆様へ

敬愛する読者諸兄のみなさまへ。

今まで1年以上にわたってご愛読くださり、誠に有り難うございました。
激変する国際情勢を、意識の高い皆様と一緒に追跡し、考える機会を持てたことはとても幸いなことでした。しかし私は、これからいっそう世界の情勢が激しく変化していく中で、よりクオリティの高い分析に取り組むために、より多くの時間を現地取材に使いたいと思うようになりました。
そのため、今抱えている仕事を一旦整理し、心機一転新たな体制でこれからの活動に取り組む決心をいたしました。
そういうわけで今回のコラムをもって、連載を終了させていただきます。

皆様のますますのご活躍を祈っております。
長い間のご愛読を心より感謝いたします。