記事・コラム 2017.02.01

高原剛一郎の専門家しか知らない中東情勢 裏のウラ

【第十一回】トランプ大統領が中東に及ぼす影響とは

講師 高原 剛一郎

大阪ヘブル研究所

1960年名古屋出身。大阪教育大学教育学部卒業後、商社にて10年間営業マンとして勤務。
現在では大阪ヘブル研究所主任研究員として活動。イスラエル、中国を中心とした独自の情報収集に基づく講演は、財界でも注目を浴び、外交評論家としても知られている。

トランプ版アメリカファーストはどこに向かうか

1月20日をもって、トランプ新政権がスタートする。変幻自在、予測不能のニューリーダーが世界をどのように引っ張っていくのか、論じるのは至難のわざだ。だが、当選後も一貫してしている3つの主張を分析すると、大きな潮流が見えてくるように思う。アメリカは、国の利益に結びつかないと判断することからは、あっさり撤退するという潮流だ。

第一の主張は、経済政策で、俗に言うトランポノミクスである。超大型減税と超大型公共投資を抱き合わせて、アメリカの繁栄を取り戻すというビジョンだ。法人税は35パーセントを15パーセントに、個人の所得税も減税する。全米各地の老朽化したインフラを刷新するために、10年間で1兆ドル投じて、経済を活性化させ雇用を作り出す。足りない資金は国債で賄う。こうして世界から集めた金をアメリカのために使う。資金を吸い上げられた発展途上国のことなど、眼中にはあるまい。

第二の主張は、通商政策で保護貿易主義だ。就任後、トランプ氏が最初にすることは、TPP脱退手続きだ。NAFTA(北米自由貿易協定)の交渉もやり直し、アメリカに高い関税をかける国には、同じ率の関税をかけると言う。これをアメリカの大統領が主張するとは、世も変わったものである。第二次世界大戦では、5千万とも8千万とも言われる人々が亡くなった。この未曽有の大戦争の原因は、世界大恐慌である。その時、植民地を持つ国は、自国の製品を植民地に売り、植民地からの原材料を自国とそのグループに囲い込んだ。いわゆるブロック経済だ。持てる国の経済圏から締め出された(植民地を)持たざる国は、自分たちも植民地を獲得して乗り越えようとした。持たざる国の代表が、日独伊である。持てる国と持たざる国の衝突が、地球規模に発展した戦争があの大戦だ。いわば、保護貿易が人類史上最大規模の戦争を生んだと言える。だから戦後、世界のリーダーを自認したアメリカは、自由貿易のルールを先導した。アメリカがそうしたのは、戦後貿易でどこよりもたくさん貿易で儲ける国がアメリカだったからだが、同時に自由貿易こそが世界の安定に寄与することを確信していたからだ。そしてこの自由貿易というルールで、戦後70年にわたり、自由世界は営々と繁栄を積み上げてきた。それを提唱者のアメリカが、自由貿易の否定とも取れる政策を掲げている。時代は、大きく変わったのだ。

第三の主張は、エネルギー政策だ。アメリカは国内に広大なシェール層を持つ国だ。ここからオイルとガスを取り出す技術が確立されて以来、産油国に変貌した。2014年には、サウジアラビア、ロシアを抜いて世界最大の産油国に躍り出た。ところで、アメリカのシェール層の多くは、連邦政府の管轄下にあるため、民間石油開発会社は手が出せなかった。だがトランプ氏は、この国有地を開放する。だからアメリカのシェールオイル、シェールガスはこれから大生産時代を迎える。これにより、雇用を増やし、貿易赤字を減らすことができる。結果として中東への依存度を著しく減らすことができる。その結果、中東への関心が薄くなる。

トランプ外交はオバマ外交の相似形か

以上3つの政策から見えることは、国益にならない事には関わらないと言う態度だ。アメリカが、小国なら問題はない。だが、この国は自由世界のリーダーたる力を備える唯一の大国なのだ。その国が自国の目先の利益以外に、興味を持たなくなったら世界はどうなるだろう。アメリカが引く事で生じる力の空白は、次の覇権を握ろうとする国々が埋めようとするだろう。ロシアと中国である。

親露派国務長官の誕生なるか

トランプ政権の人事は、サプライズのオンパレードだ。これを書いている段階で取りざたされている面々を紹介すると、国防長官は、過激な発言で「狂犬」の異名を持つジェームズ・マティス。中小企業庁長官は、プロレス団体創業者リンダ・マクマホン。労働長官は、大手ハンバーガーチェーン経営者のアンドリュー・パズダー。検討中の駐日大使には、元千葉ロッテマーリンズ監督のボビー・バレンタインだ。
だが、最大の驚愕人事は国務長官にレックス・ティラーソンを指名したことだ。彼は、アメリカの代表的親露派実業家と見られているからだ。プーチン大統領とは、20年来の友人で、ロシア政府から勲章を授与されているほどロシア側からも好感されている。一体、どんな人物なのか。
ティラーソンは、世界最大のエネルギー企業であるエクソンモービルのCEOだ。そしてエクソンモービルは、ティラーソンの下でロシア国営石油会社ロスネフチとの間で総額5000億ドルの石油開発事業を契約している。エクソンモービルのロシア国内事業は、クリミア半島併合事件以来、経済制裁の対象となり凍結中だ。だが、ティラーソン氏はかねてからロシアへの経済制裁を解除することを主張し続けてきた。だからもしも、彼が国務長官になれば、対ロシア政策が180度変わり、エクソンモービルがロシアで事業を再開する可能性がある。

米露接近の深謀遠慮

ところで、ティラーソンの経歴が余りにもロシアに傾斜したものであるため、すでに議会では有力議員たちから懸念する声が上がっている。アメリカの政府15閣僚の承認には、上院の承認が必要だ。だからこの人事は相当にもめる。もめた末に、却下される可能性もある。それがわかっていながら、あえてトランプ氏が政治経験のないティラーソン氏を指名したのはなぜなのか?そもそも、トランプ氏自身が歴代大統領の中では、例外的にロシアに融和的なのだ。なぜなのか?

実はトランプ氏が、アメリカ再生の柱の1つに据えるシェールオイルには、弱点がある。生産コストが中東湾岸諸国から出るオイルより高いのだ。全く同じ事情を抱えるのがロシアである。価格競争になれば、米露は中東諸国に太刀打ちできない。石油価格も、需要と供給で決まる。需要は世界経済の景気で決まる。景気が悪くなると、石油価格は下がる。だが、供給量をコントロールできれば、価格に影響を与えることができる。そして、今のところ、供給総量に発言力がある組織はサウジアラビアを中心とするOPECだ。 しかし、もしも米露がOPECとは別の組織を立ち上げて、石油供給量の調整を図ればどうなるだろう。生産量世界ナンバーワンとナンバースリーが、戦略物資の供給で結びつけば何が起こるだろう。しかも、その二国は世界最大の軍事力を持っている。米露接近は、中東に計り知れないインパクトを与えることになる。

もしも米露接近が本格的に発展したなら、ヨーロッパにおけるロシアの存在感は一層大きくなる。
ロシアを唯一止めることができるアメリカが、そうしないことに国益を見いだしたらしないだろう。それがアメリカ・ファーストということなのだ。日本も、大国が豹変する時代に生き残るために、自分たちでできることを本気で考えるべきである。筆者は、憲法改正と防衛力の増強は、喫緊の課題だと考えている。

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