記事・コラム 2025.02.10

【「傾聴」でコミュニケーションはどう深化するか 】 第2回

■ポイント2 「誤った『傾聴』は逆効果を招く 」

講師 須田稔

株式会社嵯峨野

株式会社嵯峨野は30年以上、医薬品等のプロモーションを行う医療系広告代理店を営んでおり、そこで培ったノウハウを医師向けのお役立ち情報としてもまとめて提供しております。

傾聴は「耳を傾けて真摯に聴く」。という文字面通りの解釈だけでは済まない、非常に難しい所作であることを理解する必要があります。「真剣に聴く」を、形から入ると、話し手はすぐにそれが単なるポーズであることが伝わり、話をする気を失わせてしまいます。


■ポイント2 「誤った『傾聴』は逆効果を招く 」

一方的に自身の主張を押し付けるのではなく、相手の主張も十分に聴く。その内容が自分の考えや主張と異なっていても受け入れる。その上で自分の考えを伝える。そのような姿勢を「アサーション」と言い、相手を受容し、自分の考えや気持ちに素直になり、正直に自己主張する。つまり、お互いに認め合うという相互尊重の心構え、相互理解を深めようというアグレッシブな向き合い方が重要です。


1970年にアメリカで「Your Perfect Right(あなたの完全な権利)」というアサーションのバイブルというべき書籍が刊行されました。筆者のロバート・E・アルベルティとマイケル・L・エモンズは、この中で「なぜアサーションが自己表現の最も適切な方法であるのかを」さまざまな角度から述べています。


一つの特徴的な知見として、対人関係のあり方を、攻撃的(自分尊重)・非主張的(他人尊重)・アサーティブ(自他尊重)の3パターンに分けています。仮に自分の対人関係のあり方が、アサーティブにならず、攻撃的あるいは非主張的に偏っているのであれば、冷静に自分を見つめ直し、改善点を洗い出していくことの重要さが挙げられています。


相手を思いやり、どんなに柔和な対応をしていても、少しでも相手をコントロールしたり、相手の思いを操作しようという意思が働けば、それは「攻撃的」である。逆に相手に必要以上に同調し、おもねる態度を見せてしまえば「非主張的」な接し方となってしまう。これは、「共感」「共生」といったコミュニケーションの在り方の基本が、決して「形」から入るものではないことを示唆しています。


アサーティブなコミュニケーションを実現するためには、相手の主張もしっかり受け止めなければなりません。そのために「傾聴」の姿勢が求められます。


しかし、冒頭に示したとおり、傾聴は「真剣に相手の言葉に耳を傾ける」という姿勢だけを指すのではありません。「真剣に聴く」を、ポーズつまり形から入ったとしても、話し手にはすぐにそれが形だけであることが伝わり、かえって気持ちを閉ざしてしまいます。

傾聴の原則は2つ。


● 「話し手の思いを、あたかも自分のことのように親身になって聴く」こと。
● 相手の主張や考えが、こちらの価値観に合う・合わないの尺度で聴いてはいけない。


要は話し手の「いま、ここ」に存在する全人格を丸ごと受け入れ尊重することが求められます。それができていればいるほど、話し手は自分の思いを心から聞き手に委ねることができ、聞き手から共感・共存されていることを認識します。

doctor×nurse



【ある看護師長と看護師の対話】


傾聴の事例をひとつ挙げて検証してみましょう。

看護師のAさんが、看護師長のBさんに、こんな相談をしてきました。
Aさんは元気がなくうつむきがち。話し方にも元気がなく、見るからに沈みがちです。目には涙も滲んでいます。

「患者さんにうまく話しかけられないんです。どうしてもぶっきらぼうになってしまって。ナースコールが鳴って私が行くと、患者さんも嫌な顔をするような気がして……」


B看護師長の応答は次のようなものでした。

「うまく話しかけられなかったといって、落ち込む必要なんかないって。私もあなたぐらいの時はそうだったんだから」


そう、笑いながら応えたのです。
A看護師の気持ちを楽にさせようとする意図が感じられる応答です。でも、A看護師は「そうですね、あまり気にしないようにします」とすぐに気持ちが吹っ切れるような状態になったでしょうか。

涙ながらに訴えるほどですから、おそらくA看護師は、自分が発した相談の言葉よりもずっと深く傷つき、悩んでいたものと想像できます。この応答では、「やっぱり、わかってもらえない……」との絶望感に襲われ、もうB看護師長には相談する気がしなくなる可能性が強いと思います。

もしB看護師長の応答が、次のようなものであったらどうでしょう。

「患者さんと上手く対話ができなくて、がんばってに話そうとするとぶっきらぼうになってしまうのね。だから、これからも患者さんと密に接することができないんじゃないかと、不安になってしまう……」




このような反復の言葉を、真剣な眼差しでA看護師と同じように静かに、そして穏やかな口調で語りかけてきたらどうでしょう。A看護師は心を開いて、さらに胸の内を話したくなるのではないでしょうか。

このあと、B看護師長は「あなたを理解したい」との態度を崩さず、A看護師に徹底的に寄り添って援助をします。

A看護師にとっては、自分の存在を否定することも評価することもせず、変えようとすることもなく、無条件に受けいれてくれる人がいることは、大きな支えになるはずでしょう。


次回は「傾聴」でコミュニケーションはどう深化するか 【第3回】「自分の思いを伝えられない、非主張的な私 」を紹介します。




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